違法な労働者派遣とは何ぞや?
今一度、パナソニックプラズマディスプレイ事件の平成21年最判を見てみよう。
7ページ下から3行目(1)~
請負契約においては、請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人にゆだねられている。よって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。そして、上記の3者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないものというべきである。
<中略>
これは労働者派遣法の規定に違反していたと言わざるを得ない。しかしながら、労働者派遣法の趣旨及びその取締法期としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元の間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである。
少し長い引用になった。<中略>の部分は当該事件固有の事情なので割愛した。
まず前半部分だが、本事件の場合、控訴審判決は控訴人は労働者であると認定はしたものの、雇用契約を締結してるだろう労働者の相手方がうやむやにされている。しかし、労働者ではあるとの事。その労働者を「注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合は、たとい請負人と注文者の間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。」となっている。
つまり、自ら雇用しない労働者を「自らの場屋内において直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合」は労働者派遣に該当すると解すべきで、「特段の事情ない限り」「雇用契約が無効になることはないと解すべきである」と断言している。
本事件について考えてみると、倉庫作業については、控訴審判決が繰り返し唱える請負関係などは存在しない事になる、当該最判と違うところは、被控訴人との間に明確な雇用契約が認識されていない事と、訴外A、訴外B、被控訴人という二重派遣である事だろう。いずれにしても、そのパナソニックプラズマディスプレイ事件が、その後に続けるように、「このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は職業安定法4条6項にいう労働者に該当する余地はないものというべきである。」と延べ、 「仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元の間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである。」と続けている。
つまりだ、真正な請負関係等では無く、違法な労働者派遣だとの視点が大阪高裁控訴審にあれば、参照したパナソニックプラズマディスプレイ事件を、そのまま踏襲する形に過ぎない。
被控訴人以外との雇用契約の可否を考察
以上の論理によれば、就労場所の倉庫会社である訴外Aが雇用契約の相手方となることは無いだろう、あくまでも発注者であり、派遣先に該当する。
では、訴外Bはどうだろうか。限り無く控訴審判決を尊重したとすれば、たしかに控訴審判決が判示するとおり、訴外Bが使用者である余地はあるのかもしれない。しかし労働者派遣法は派遣元が2以上である事を想定していない。いわゆる二重派遣となり違背するものである。だからこそ労働局需給調整事業部が是正指導を行った事にも筋が通るのだ。
この歪な法関係は、関係各社に遵法精神が微塵もない事から発生しているのだが、大阪高裁は、その部分にはメスを入れないどころか、容認するような位置に立っている。もっと言えば帳合料なるものを搾取し、自ら請け負った配送業務を、自ら指揮せずに、管理せずに、訴外B等に丸投げする事も職業供給事業に該当し違法だと考えているが、控訴審はそれすらも適法のごとく容認しているのだから、狂ってるとしか考えようが無いと言うべきだろう。
話を戻そう、労働者派遣法は派遣元が2以上ある事を想定していない。それにも関わらず、裁判所をも惑わす状態と被控訴人と訴外Bが作り出したのが現実ではないだろうか。また労働諸法令でも、1つの労務に対して、2以上の使用者が存在する事も想定されていない。本事件の法律関係が複雑になっているのは、この部分だろう。その全ての要因は、被控訴人と訴外Bの曖昧な認識と言動にあるわけで、全体として違法で有ったとしても労働者派遣の外見を装う以上、被控訴人と訴外Bとの双方に、その責任を負わせる事。または、表面的には被控訴人に責任を負わせ、訴外Bとの内部求償の問題にする事が法的にも安定するのではないだろうか。
いずれにしても、訴訟に参加していない訴外Bに何らかの責任を追求する事は、裁判所的に無理があるだろう。(行政の判断を失当だと断言している事は甚だ理解できない。)
また、訴外Bが労働者派遣法でいうところの、派遣元になるのか発注者(派遣先)になるのかは、そもそも法の予定しない関係なので決する事はできないだろう。だからと言って被控訴人が、その責任を逃れる事は全く以て不合理であることに変わりは無い。
大阪控訴審判決が述べる労働者派遣とは
大坂控訴審判決は、労働者派遣だと考察するような姿勢を見せる時がある。直接触れている箇所が4つプラスパナソニックプラズマディスプレイ事件を合わせると5つのなる、この記事ではパナソニックプラズマディスプレイ事件以外の4つの部分を見てみよう。
1配送業務が労働者派遣で無い事
本件配送業務請負契約が請負を仮装した労働者派遣に当たるものではないことは明らかであって(11ページ下から9行目~)
まず始めの部分だが別の記事でも述べたように配送業務が雇用契約だと言いたいのだろう。そんな事は百も承知で、わざわざ言われなくても判ってる事で、配送業務がどうのこうのと持ち出しもしていないにも関わらず強引に関係させたいがために字数を稼いでるとしか考えられない。
2実績が無いから労働者派遣で無い~そんな理屈が通用するのか。
平成20年ころに特定労働者派遣業の届出をしたものの労働者派遣の実績がなかったこと(15ページ13行目~)
実績が有ろうと無かろうと、労働者派遣は労働者派遣なわけで、実績を積まなければ労働者派遣にならないとでも言いたいのだろうか、笑止千万とはこの事だろう。仮に被控訴人が特定労働者派遣事業の届出をしていようと、してなかろうと、本事件には一切影響はしないはずだ。いや影響することは労働諸法令の趣旨に反すると言うべきだろう。
3配送業務がどうであろうと関係しない。
被控訴人が控訴人を訴外Bらのもとで本件配送請負契約に基づき配送業務に従事させたことが労働者派遣に当たることがなく、そうすると、その後に控訴人が訴外Bらのもとで倉庫作業に従事しても、被控訴人が控訴人を訴外Bらのもとに労働者派遣をしたと認める事の形式的前提を欠くというべきである。(17ページ下から4行目~)
三つ目、ここでも配送業務を持ち出し比較したがっているとしか考えられない。繰り返すが配送業務がどのような契約だろうと、どのような法律構成をとっていようと本事件とは一切関係は無いのだ。比較する事自体が、持ち出す事自体が滑稽だと考えざるを得ない。
4あくまでも配送業務を前提にしなければならないのか。
したがって、上記法令によっても、控訴人が倉庫作業に従事したことが、請負の形式をとった被控訴人による労働者派遣ととらえることはできず、他に控訴人と被控訴人の間で雇用契約が成立したことを認めるべき法令上の根拠もない。(18ページ下から7行目~)
この上の行、およそ1ページに渡り、順次請負関係だからと繰り返し述べる、この「したがう」中に「順次請負関係」との字句が2度も登場しているのだ。何度も繰り返すが配送業務が順次請負関係だったとしても、それとこれとは別の契約なんだから、別の視点で考えるべきじゃないのか。
この4カ所くらいだろうか、いずれも配送業務が請負だから、倉庫作業は労働者派遣ではないとの感じで、全く以て理解ができない。配送業務と倉庫業務は全く別の契約であり、配送業務がどうだろうと、倉庫業務は倉庫業務で評価されるべきじゃないのだろうか。
つまり控訴審判決の全体を通して、限り無く簡単に要約すると、「配送業務が順次請負関係なんだから倉庫作業が雇用契約のわけがない。」と、そんな感覚を抱かせてくれる。
昭和61年労働省告第37号の派遣と請負の区分に関する基準
大阪控訴審判決は、子細に検討している振りをしてくる。この基準(昭和61年労働省告第37号)の第二条の冒頭にあるように、派遣元との雇用契約が成立している事が前提になっている。そもそも被控訴人との雇用契約を認めてないのだから、当該基準を持ち出す事は何ら意味を見出せないことではないのだろうか。
第二条請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であつても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。
労働者派遣が成立する為には、派遣元との雇用契約が前提となる。つまり、控訴人と雇用契約を締結した相手方が誰なのかが明確にならなければ労働者派遣との概念を持ち出す事すら無理が生じるはずなのだが、控訴審判決は、そんな部分を無視し、労働者派遣でないから雇用契約で無いとおかしな論理を展開しているのだ。