労働諸法令は原則として強行法規だ!~使用者を擁護するべからず。

大阪高裁控訴審判決は奇策の塊だ!

大阪高裁控訴審判決は、控訴人と被控訴人との間に雇用契約が成立しない事に、これでもかと奇策を講じてくる。

労働基準法を始めとした、労働諸法令は、その大部分が強行法規と呼ばれるもので、契約自由の原則や、私的自治の原則なんてものを蹴散らし、強行して適用される条文が多い。枚方職業安定所に対して申し立てた、雇用保険法上の被保険者資格確認請求や、枚方年金事務所に対して申し立てた、社会保険や厚生年金の被保険者資格確認請求が、認容され、職権により遡及適用された事も、強行法規ならではのものだろう。

他の記事で、少しだけ触れたが、控訴審判決は、雇用契約の始期の合意の有無に大きく着目している。労契法上は使用者・労働者の合意によって成立するとなっている。

労契法(労働契約の成立)
第六条  労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

しかし、これも、いかなる契約を装い締結されようと、実態が雇用契約とみなされる場合には労働諸法令が適用されると解するのが原則だろう。いや、悪質な経営者が蔓延している現代だからこそ、積極的に行政や司法が介入して、実態としての労働者を保護すべきでは無いかと考えている。

雇用保険や社会保険等が職権で遡及適用された事は、それが具現化されただけの事で当然と言えば当然の事だと考えている。また、国交省は建設現場での一人親方に対して「社会保険加入にあたっての判断事例集」なるリーフレット(リンク先は平成25年3月のもの)を作成し周知に努めている。

一応ではあるが控訴審判決も同様の事を述べている一節はある。(17ページ7行目(エ)~)

(エ)なお、雇用契約は、当事者間の契約の形式に関わらず成立を認めるべき場合があり、控訴人が倉庫作業に従事したことが、請負の形式をとた被控訴人による労働者派遣ととらえることができるか否かについて、さらに検討する。

この後半の控訴審判決が為した労働者派遣ととらえることが出来るか否かの検討に関しては別の記事で述べる予定だ。

労働諸法令の強行規定は無過失責任だ。

つまり、使用者が、どのようなつもりだろうと、どのように認識していようと、客観的に労働者と認められる場合にはその責を逃れられないって事では無いのか。いや、そうで無ければ強行法規とは言わないだろうし、強行法規と言えないだろう。

しかし、控訴審判決では、被控訴人の「そんなつもりは無かった」を過度に採用し、擁護とさえ思わせる理由を連ねてくる。(判決文14ページ1行目から)

被控訴人は、終始、倉庫作業における控訴人の立場が請負人ではなく労働基準法及び労働契約法上労働者であり、倉庫作業が本件配送業務請負契約とは別個の雇用契約に基づくものであることを正解しておらず、倉庫作業も本件配送業務請負契約に附随する控訴人の事業者としての請負として行われているものという誤った認識をしていたと推認することができる。

全く意味が理解できない。つまり誤った認識は責められずに、仕方が無いと、保護されるべき労働者に負担を強いるとの事なのだろうか。雇用契約に該当する事を正解できなかったのは、被控訴人らの無知または重過失または確信および故意によるもので、いずれにしても保護されるべきは労働者である事に変わりはないのではないのか。

控訴審判決はさらに続ける。(14ページ9行目から)

筆者による要旨
①「休日がとれないことについて苦情を言わなかった事」、また「未払残業代について請求権が生じていることを認識しながら請求しなかった事」、さらに「消費税増額分の計算間違いに注意喚起しなかった事」などは、「被用者(労働者)であれば通常行うべきことをしておらず」とのこと。
②被控訴人において同様の倉庫作業を行うものがおらず、本事件の勤務実態を把握していなかったこと。
③控訴人が配送業務を行わなくなったことを知らされていかったこと。
④請負にあってお作業時間に応じた報酬を支払うことがあり得ないわけでなく、明細から読み取ることが困難であること。
⑤日常的に一人親方の運転手に請け負わせており、家族経営の小規模であり、特定労働者派遣の実績がなかったこと。

 そのような事情であるから、誤った認識をしていたことは無理からぬところといえ何ら不自然ではないらしい(15ページ下から10行目)。

控訴審判決は労働諸法令初学者でも指摘できる浅い理由
そんな無茶な理屈があるのか!それぞれの項目に対して簡単に反論してみる。
①休日は使用者が管理するもので、労働者が管理すべきものではない。残業代や消費税の計算間違いも労働者が通常指摘するものだなんて話は初耳だ。
②勤務実態を把握してないって請負契約でもアウトじゃないのか。そもそも、それでは請負では無く、職業供給事業じゃないのか。
③訴外Bからの明細を見れば倉庫業務だけになった事は一目瞭然だ。
④初月に「187」が労働時間だと確認してるんじゃなかったのか。少なくとも、請負であったとしても、業務内容の確認が無かったはずはないだろう。帳合料(手数料)だけを得る事が目的ならば、それは既に請負ですら無く、職業供給事業に他ならない。
⑤全く以てわけがわからない。日頃の業務が何であろうと、始めてだろうと、経験が浅かろうと、若かろうと、学生起業家だろうと、使用者に対して遵守しなければならない義務を科す最低限の基準が労働諸法令だ。

あくまでも簡単にまとめてみたが、それぞれの項目に対しては、一記事ずつ書く事が可能じゃないかと言うくらいに違和感を抱いている。そんなに深い知識がいるわけでは無く、労働法の初学者でも指摘できる内容だと感じている。

つまり控訴審判決の論理は幼稚で稚拙で薄っぺらいものとしか感じないのだ。

もう少し掘り下げると、被控訴人は請負契約においても、真正な請負では無く職業供給事業を行っていた事を認定しているようにも考えてしまう。もちろん実態としても職業供給事業の側面はあるのだが、控訴人が労働者だと認定されてる事から、違法な労働者派遣となり、平成21年最判(パナソニックプラズマディスプレイ事件)では違法な労働者派遣でも労働者保護の観点から一応は労働者派遣契約が無効にはならず、有効に成立しているものとみなす視点に立っている。