大阪高裁控訴審判決には重大な事実誤認・手続きに瑕疵が有る。

黙示の雇用契約が認められる為の要件とは

前の記事からの続きなので、出来れば振り返って見て下さい。

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大阪高裁控訴審判決は重大なる事実誤認だ!

控訴審判決の②~④が最高裁の①~③に該当すると考えるが、該当部分の事実認定(②~④)から受けた印象は、「なんでそうなるの?」というような感覚だ。

人選、採用に関与していたか否かについて。

控訴審判決は、少し手前(11ページの最後の段落~)から始まる

ところが、その後、控訴人は訴外Bの従業員から、訴外Aの豊中倉庫の内勤業務をやらないかと打診され、業務内容や労働条件等はいずれも訴外Bや訴外Aから指示・説明を受けて、平成25年1月16日から倉庫作業を開始したものである。そして、倉庫作業の開始に当たり、控訴人が被控訴人の従業員Kに対し訴外Bらから上記の打診があったことを告げ、Kがこれに賛意を示したことがあった(甲12)としても、控訴人と被控訴人とが、業務内容や労働条件など雇用契約の要素となるじこうを協議し合意した事実は伺えず、また、被控訴人が訴外Bらに控訴人との雇用契約締結のための代理権を予め授与した事実も証拠上何ら見当たらない。

この事実認定には、かなり無理がある。というより、後半部分などは何を言ってるかすらわけが解らない。雇用契約締結のための代理権なんて与えられるものなのなのなんだろうか、スッと事例が出て来ない。

訴外Bの従業員から打診を受けた事は認めよう。被控訴人の従業員K(このKが従業員か取締役かには大きな疑念を抱いている。)に相談した事も認めよう。その他の部分に関しては、まるで頓珍漢としか表現が出来ない。

倉庫業務が何契約であろうとも、被控訴人(の従業員K)が自ら下請け業者である控訴人、つまりは被控訴人に利益をもたらす控訴人が、その利益を失する事になる訴外Bらと直接の契約に賛意を示した事は不自然極まりないとは考えないのだろうか。

仮にそうであるとするならば、その時点で被控訴人と訴外Bらとの間で、何かしらの合意があった事になりはしないのだろうか。被控訴人は、倉庫作業に関しても、自らが何かしらの利益を得る事を期待または予定していたからこそ賛意を示したと考える。

訴外B代表者の尋問調書が採用されていない

訴外B代表者の証人調書より(一審)
控訴人と被控訴人代表者の関係性について、訴外B代表者は、こう説明する(証人調書4ページ中程から4ページ上にかけて)。

そのあなたが原告(控訴人)さんに内勤の仕事を任すようになる前に、あなたが被告(被控訴人)代表者に話をしましたか。

訴外B代表者>>しましたよ。

直接。
>>直接してますよ。

内勤の仕事、倉庫の仕事について、代金をどうするか、原告(控訴人)がどれぐらいお金を得るようにするか、それは誰が決めたんですか。

>>いや、大体、その仕事、ワンクール言うんですか、1日が、3万円ぐらいもらっておるんで、うちが半分するから、社長とこも半分で1万5000円ほどでいうことで、ここの従業員やから、原告(控訴人)さんに給料なんぼやれ、どんな勤務やといことは私はできませんので、ほんで、原告(控訴人)さん、1人やなくてもいいよと、この間、3人入れても4人入れてもいいということで話ししましたよ。(下線部は筆者による)

つまり、原告(控訴人)の知らないところで、訴外Bと控訴人の話し合いが在り、何らかの合意が形勢されていたって事じゃ無いのだろうか。

ちなみに、訴外B代表者の証人尋問は被告(被控訴人)が申立、このやりとりも被告(被控訴人)代理人とのやりとりだ。

他の書面を見ていても、この証言に対して否定する主張および立証は行われていない。つまり被告(被控訴人)は、認めてるって事じゃないのだろうか。

控訴審判決には、この部分が一切採用されていない。
採用しないどろこか、訴外Bと控訴人が直接の契約が有るように示唆するのだ。
少なくとも、訴外Bは控訴人の契約相手が被控訴人で有ると証言してるように受け止めているのだが、間違っているのだろうか。

自由心証主義とは言え過誤な判断を犯した大阪高裁


まず条文を見てみよう。

民訴法(自由心証主義)
第二百四十七条  裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。

そもそも自由心証主義とは何だろうか。裁判とは何だろうか。そんな部分の話しになる。ざっくりした書き方になるが、当事者双方が、各々に自らに利益になるべき事を主張・立証し合いながら、その主張の裏付けを裁判所に訴えて行く。そんな感覚を持っている。

例えば人の血の色が赤いと言う事の立証活動は不要なんじゃ無いかと考えている。逆に人の血の色が緑だと主張するのならば積極的な立証活動が必要になるのだろう。

ただし、実際は、人の血の色なんてものが争点になる事も無いだろうし、そんなに解りやすく簡単なものでも無いんんだろう。つまり、片や人の血の色が赤いと主張し、片や人の血の色は緑だと主張しているような場合、双方の証拠や証言の価値をどう判断するのかは裁判所に委ねられており、明確な基準が儲けられているわけではない。

もちろん、裁判所というものは、高度な法律論がある事は当然として、その技術や、世間一般で言うところの常識のようなものが存在する事が前提だと考えている。ただし現実は世間一般の常識とかけ離れた判決が少なからず存在してきていて、それを少しでも補う事が刑事事件における裁判員裁判制度の導入の一つの建前だったのでは無いだろうか。

話しを本事件に戻そう。前述したように、訴外B代表者が、法定で宣誓した上で陳述した証言を採用するか否かも裁判所の自由と言えば自由で、どの程度信用するのかの一切も裁判所の自由だろう事を否定するつもりは無い。

しかし、本事件控訴審判決では、見事に、採用しないどろこか無視してしまっている。
前述の、訴外Bの証言からは、倉庫業務に関して、原告(控訴人)と被告(被控訴人)との間に何かしらの契約が存在しており、訴外Bは、その事を前提に、原告(控訴人)と被告(被控訴人)との契約が締結されるように積極的に活動していたのでは無いのだろうか。

そこのところには一切触れずに、訴外Bらとの契約を推認してしまう控訴審が荒唐無稽の頓珍漢だと感じざるを得ないわけです。

少なくとも、前述の部分(訴外B代表者の陳述)に触れ、裁判所なりの見解を示し、およそ一般的に、または高度な法技術を用い否定した後に、採用しないと言うのであれば納得できる可能性も無くは無い。しかし、控訴審判決は、傷口を避けて通るように、臭い物に蓋をするように、見事にその全部を臭わせもしないものとなっている。

しかも、控訴審の論理からすれば、決して小さくない、いや根底から、その判断を覆す程に大きな部分であり、そんな大事な部分だからこそ、触れない事は裁判所の公平性に欠け、司法に対する信頼を損なう事しか出来ない部分である。