行政の判断と、控訴審判決の契約構造を図示する。

本事件はあくまでも違法な労働者派遣だ!

控訴人の主張はあくまでも、偽装請負であり、二重派遣です。つまりは違法な労働者派遣だとの論理は行政への各申告から一貫してるもので、裁判所だけが認めない事になっている。

平成21年最判(パナソニックプラズマディスプレイ事件)では、法が整備されていない違法な労働者派遣だとしても「労働者保護の観点から」として、あくまでも労働者派遣の視点を貫いている。

そんな判決を鑑みた上での行政からの一貫した論旨なのだ。

本事件の被控訴人や訴外A及び訴外Bの関係は、司法権の中では前代未聞じゃ無いかと、学習院大学教授の橋本陽子氏が東京大学労働法研究会で述べており、その一審判決の講釈はジュリスト2017年4月号に掲載されている。

大阪地裁はおろか、大阪高裁までもが、そのような見立てをせずに、独自の論理を展開してくるのだ。

これが違法な労働者派遣でなければ、全体としてどのような契約関係に有ると控訴審は見立ててるのでしょうか、不思議で仕方がない。

派遣労働者だからこそ、被控訴人では無く、訴外Aまたは訴外Bの指揮命令を受けてるにも関わらず労働者性を認定したんじゃなのだろうか。

果たして、控訴審は、被控訴人が、どのような契約に基づき帳合料なる利益を得ていたのでしょう。そもそも自己の管理下に置かず、他の事業者の管理の下で金員のみを得る行為は、それが例え請負で有ったとしても、職業供給事業に該当して、職業安定法44条に違背しており、帳合料そのものが違法行為だと考えられはしないのだろうか。

職安法(労働者供給事業の禁止)
第四十四条  何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。

控訴審の見立てを具象化すると、全体として破綻してしまう。
控訴審の言う真性の順次請負関係とは何なのだろうか。請負とは主に仕事の完成に対する対価を受ける契約の事のはずだが、発注者と納品者は同一であるはずでは無いのだろうか。本事件では直接関係が有りませんので、大きく主張してませんが訴外Bの管理の下で請負、被控訴人から支払いを受ける事が、前述の通り職業供給事業では無いかと考え得るのですが、その一方当事者が労働者の場合にその相手方である使用者が誰なのか、そこが大きな争点となっている。

大阪高裁控訴審の判断を取り入れて見る。

控訴審判決の言う通り、労働者の相手方である使用者が訴外Bらで有ると考えた場合に、被控訴人が控訴人に対して支払っていた金員は、倉庫業務の対価では無く、何契約に基づいて給付していたと言うのだろうか。

労働者がその対価として受け取るものが賃金だと法は明示しています。労働者である控訴人が被控訴人から倉庫業務の労働の対価として受け取っていたものが賃金で無い事になってしまう。

また、労働基準法24条の直接払いの原則を控訴審はどのように見立てているのでしょうか。仮に使用者責任を訴外Bらが負うとした場合、一切の賃金を受領していない事になり、時効の問題はともかくとして、請求可能となるのでしょうか。そうすると控訴人が被控訴人から倉庫業務の対価として受領していた金員に返還義務が生じるのだろうか。

労基法(賃金の支払)第二十四条  賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

はたまた、本事件の訴訟物である労基法37条に基づく時間外労働についての請求部分のみ控訴人が義務を負わないとなってしまうのだろうか。

労基法(時間外、休日及び深夜の割増賃金)第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

大阪高裁控訴審の視点に立って考えてみる。

控訴審判決の言う通り、労働者の相手方である使用者が訴外Bらで有ると考えてみると、不思議な思考があちらこちらに表れてくる。つまり、控訴審判決は棄却する為に独自の論理を打ち立て整合性の取れない状態に陥っている。つまり控訴審判決の論理は破綻している事になる。

前記した通り、労働の対価を給付していない訴外Bらを使用者とした場合に、労働者が労働の対価として受領していた金員はどのような性質のものなのだろうか。

労働の対価を給付する被控訴人を使用者としないのならば、訴外Bらと被控訴人の関係は何契約なのだろう。何ら契約関係に無いにも関わらず金員のやり取りが有ったのだろうか。

また、前記事で述べた通り、訴外Bから被控訴人に対して、倉庫業務が始まる前に何かしらの交渉が有っただろう事、そして恐らくは、その交渉が合意に至ったであろう事はどのように評価するのだろうか。

大阪高裁控訴審判決には重大な事実誤認・手続きに瑕疵が有る。
黙示の雇用契約が認められる為の要件とは 前の記事からの続きなので、出来れば振り返って見て下さい。 大阪高裁控訴審判決は重大な...

また、訴外Bは被控訴人に対して、契約の終了を明示しているが、その契約はどのような契約なのだろうか。何ら契約関係に無いにも関わらず、契約が終了するはずの無い事は明からだ。この部分に関しては、被控訴人自ら、訴外Bから契約終了の通知を受けた事を主張している。

いずれにしても、被控訴人は控訴人に対して何かしらの契約関係にあるのでは無いのだろうか。控訴人が労働者だと判断した上で、契約の相手方の使用者が、被控訴人で無いとしているが、労働者である控訴人に対して、どのような契約に基づき関わっていたと考えるのだろう。

真性な順次請負関係なんて存在しない。

控訴審判決は、その最後で、違法な労働者派遣だとの論理を認容してきた各行政を、真正な順次請負関係などとの言葉で排斥している。しかし真正な請負関係など端から存在しない。

上で見てきたように、労働者である控訴人の雇用契約の相手方が訴外Bらだとした場合に本事件を棄却するだけで、訴外Aや訴外Bとの関係は何ら明確にされていない。本事件だけで考えるのならば、訴訟法としては、それで何も問題は無いのかもしれない。しかし、結局のところモヤッとした不明瞭で本事件の勝ち負けをおいといたとしても、法的にどのような契約関係に有ったのかは闇に葬られてしまっている。

闇に葬ると書いたが、控訴審自体が、把握出来てないのだろう。意図してそのような方向付けをしているとすれば、その理由に皆目見当が付かない。