パナソニックプラズマディスプレイ事件を援用・誤用~比較・検討

配送業務の検討は必要なのか?~双方に争いの無い事実

各行政庁への主張と変わらず、当初から配送業務と倉庫業務は別個のものだとの点には、相互に争いがない。にも関わらず、控訴審判決は焦点を当ててくる(11ページ中ほどイ(ア)~)。

この段落の8行目に「真正な請負契約」との文字列が出てくるのだが、この文字列を後々使い回したい為のミスリードの始まりだと考えている。判決の最後にまで繰り返し出てくる「真正な請負契約」または「真正な順次請負関係」との文字列が最初に出てくるのが、この部分になっている。

繰り返すが、そもそも配送業務が雇用契約だなどとの主張は一切していない。仮にそれが、どのような契約だとしても、倉庫作業がどのような契約にあたるのかを検討する事に影響するとは思えない。

相互に争いの無い事実なのだから約半ページ(12行)も割いて検討する必要があるのだろうか、全く以て理解できない。ちなみに地裁で棄却された労働者性を認定する為に使われのは1ページ余り(33行)。文字数だけで優劣を付ける事が出来ない事は解ってはいるが、「配送業務が雇用契約で無い事は相互に争いが無い。」これだけで済ます事を避けたのは何故なんだろうか。

控訴審判決は、「ところで」と(イ)に続け、控訴人と被控訴人との間で雇用契約が締結されてない事を論じていく。

雇用契約とは、使用者と労働者が対等の立場で、労働者が労務の提供を行い、それに対して使用者が対価を支払う契約を締結する事だと考えている。

労基法(労働条件の原則)
第一条  労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
○2  この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

労契法(労働契約の原則)
第三条  労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。

本事件では、この部分が大きな争点であり、各行政庁と異なる見解を司法が出してきている事で苦戦している。もちろん行政と司法が異なる判断をする事を否定するわけではなく、まあよく有る事ではあるとは理解しているつもりだ。それが三権分立だって事は理解しているつもりだ。それでも、やっぱり、なんだかモヤモヤする判決の内容であり、最高裁の判断を得なければ、その法の解釈が確定しない事にイライラする。立法者(国会)が襟を正す事を願うしか無いのだろうが、この国の議員立法の少なさを思うと大きな期待は出来ないのだろう。

パナソニックプラズマディスプレイ事件を援用・逆張りする大阪高裁

派遣先との黙示の雇用契約が認められるのか否か?

パナソニックプラズマディスプレイ事件とは、、平成21年12月18日最高裁第二小法廷が出したもの。事件番号としては平成20(受)1240となっていて、控訴審が援用した部分は、労働事件を扱っている方なら誰でもが知っているだろう、判決の中でも下線が引かれているポイントとなる有名な部分だ。

まず、引用部分を比較してみよう。

最高裁第二小法廷(平成21年12月18日)
前記事実関係等によれば,上告人はCによる被上告人の採用に関与していたとは認められないというのであり,被上告人がCから支給を受けていた給与等の額を上告人が事実上決定していたといえるような事情もうかがわれず,かえって,Cは,被上告人に本件工場のデバイス部門から他の部門に移るよう打診するなど,配置を含む被上告人の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったものと認められるのであって,前記事実関係等に現れたその他の事情を総合しても,平成17年7月20日までの間に上告人と被上告人との間において雇用契約関係が黙示的に成立していたものと評価することはできない。

本事件控訴審判決(12ページ3段落目~))
①上記認定判断のとおり、控訴人と被控訴人が倉庫作業開始時点で同作業を業務内容とするる雇用契約を締結したとは認められないこと、② 控訴人に倉庫作業に従事させるべく働きかけたのは訴外Bらであったこと、③倉庫作業の報酬額を決定したのも訴外Bらであること、④倉庫作業に関して、被控訴人が配置を含む控訴人の具体的な就業態様を一定の限度であっても決定し得る地位になかったことに照らすと、前記アのとおり労働基準法及び労働契約法上の労働者に該当する控訴人と雇用契約を締結したのは、むしろ訴外B又は訴外Aであると解する余地がある(最高裁平成21年12月18日第二小法廷判決・民集弟63巻10号2754項参照)。

つまり控訴審は、雇用契約が成立する要件として、①契約の始期に雇用契約締結の意思があったか否か、②契約を働きかけたのは誰か、③報酬額を決定したのは誰か、④具体的な就業態様を一定の限度であっても決定し得る地位にあったか否か。と、考えているようだ。

ここにも微妙な違和感が残る、最高裁判示の同部分をみてみると、①採用に関与していたか否か、②給与等を事実上決定していたか否か、③具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったか否か。文脈から考えても、この3点だと思うのだが、控訴審が4つの要件を持ち出しいるのは強引すぎやしないだろうか。

もう少し簡単にすると、最高裁は、①人選と②給与と③一定限度の就業態様に関与していたか否かの3つしか示してないはずだが、大阪高裁は①を無理矢理ねじ込んでいる。

そもそも、雇用契約が成立しているか否かを検討すべきにも関わらず、冒頭で雇用契約が成立していない事を要件に加える事自体が滑稽にすら感じてしまう。 単純な話で、数学で言うところの一次関数の問題だろうか、Aを証明するのに「AはAである」から始まるなんて事は有り得ないだろう。

少なくとも雇用契約との認識は被控訴人を含め訴外Aも訴外Bももってない。と、訴外Aらは、あくまでも表向きは主張しているのだから、控訴審判決が①を持ち出す事には無理がある。控訴人と訴外Aらとの関係で何かしらの雇用契約が有ったのなら、認められているのなら、ともかくとして、そもそもの争点が①そのものなのだから、さっぱり理解出来ない。

違法な労働者派遣事業であり、二重派遣・偽装請負である

この相関図は控訴審第一準備書面にも記載したもの(3ページ)をWEB用に図案化したものだが、控訴審は一体どのような相関関係を前提としているのだろうか、甚だ疑問である。

別で詳しく触れるが、訴外B代表者の尋問では、控訴人と被控訴人との間の何かしらの契約だと証言している。

平成21年最判を援用している辺りからも、控訴審は違法な労働者派遣と認識しているのだろうか。そうで有るならば、ますます労働者は保護されるべきではないのだろうか。

労働者派遣法(目的)
第一条 この法律は、職業安定法 (昭和二十二年法律第百四十一号)と相まつて労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講ずるとともに、派遣労働者の保護等を図り、もつて派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする。
余談だが、労働者派遣法は通称であり、正式な名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」というダラダラしたものだ。
本事件は違法な労働者派遣であり、二重派遣・偽装請負を前提にするものである。控訴審が違法な労働者派遣の関係だと認めるのならば、そこに従事する派遣労働者は保護されなければならない。